大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

京都地方裁判所 昭和34年(行)12号 判決

原告 堀口忠信

被告 左京税務署長

訴訟代理人 松原直幹 外三名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告は被告が訴外京都興業建設株式会社(以下訴外会社と称する)に対する法人税滞納処分として、昭和三十四年一月二十七日右訴外会社の原告に対する金額二〇〇万円の株式払込請求権を差押えた処分は無効であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。との判決を求め、その請求原因として右訴外会社はもと京都建設工業株式会社と称し設立と同時に発行した株式数は四千株一株の金額は金五百円、昭和二十八年十二月十七日設立登記を経たものであるが被告は右訴外会社の設立に際し株式引受人等より払込まるべき株金は全く払込がなされていないから訴外会社はその発起人たる原告その他にこれが払込をなさしめ得る権利あるものとする見解の下に訴外会社の昭和三二年度法人税滞納の滞納処分として昭和三十四年一月二十七日訴外会社の原告に対する前示債権を差し押うる旨の処分をなした上同月三十日その旨原告に通知した。しかし乍ら訴外会社の株金二百万円はその設立に際し各株式引受人から適式に払込がなされたもので原告は訴外会社に対し被告の主張するような債務を負担しているものではないから被告のなした右債権差押の処分は無効である。よつて右無効の確認を求めるため本訴に及んだと述べた。

立証〈省略〉

被告は本案前の抗弁として原告の訴を却下する訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め、その理由として国税徴収法による滞納処分としての債権差押がなされた場合に差押の対照たる債権が差押の当時不存在であつたために右差押が無効となつてもかかる意味の無効については行政事件訴訟特例法による無効確認の訴は許されないものと解すべく本件は不適法の訴として却下せらるべきものであると陳べ次に本案の答弁として主文同旨の判決を求め答弁として、被告が訴外会社の法人税滞納の滞納処分として昭和三四年一月二七日訴外会社の原告に対する金二〇〇万円の株式払込請求権を差押え同月三〇日その旨原告に通知した事実並右訴外会社の原告に対する株式払込請求権の成立原因が右訴外会社の設立に際し株式引受をなした者等より全く払込をなし居らざるため発起人の一人として原告においてその払込をなす責ありとする見解に立つて被告が右差押処分をなしたるものなる事実は孰れもこれを認む、右訴外会社の設立に際し株式引受入等より夫れぞれ適式に株金の払込がなされたりとの原告主張事実はこれを否認する加え仮に右払込がなされていて本件差押の対照とせられた株式払込請求権が不存在であるとしてもその瑕疵は明白な瑕疵ではないから差押処分を無効ならしめるものではなく原告の請求は棄却せらるべきであると述べた。

立証〈省略〉

理由

昭和三四年一月二七日訴外会社の昭和三二年度法人税の滞納に因りその滞納処分として被告が訴外会社の設立発起人たる原告に対する金二〇〇万円の株金払込請求権の差押処分をなし同月三〇日その旨原告に通知したことは本件当事者間に争がない、被告は仮令原告の主張する如く訴外会社の原告に対する株金払込請求権が昭和三四年一月二七日当時客観的に存在せず、その意味では右差押が無効であつたとしてもかかる意味の無効を確定する訴は行政事件訴訟特例法の枠内にはいる無効確定の訴でなくかかる場合に訴を以て、被告より爾後の処分を中絶せしめる等の一定の利益を感ずるものは通常の民事訴訟の債権不存在確定の訴等それに適当な方法がある訳でこれを行政事件訴訟として提起することを得ず本件は不適の訴であると主張し抗争するからこの点について按ずるに訴に被告の指摘するように、行政処分の無効のその原因はこれを区別して考察すべく或る種の無効少くとも差押処分の対照たる私権が客観的に不存在のために結局は行政庁が差押の効力(昭和三〇、三、二九、法律第二一号国税徴収法第二三条ノ一第二項の収税官吏の債権者代位権)を享受し得ないことに帰するというような意味の無効は行政事件訴訟特例法第一条の訴としてはこれを受け入るべきでないという見解が多くの示唆を含み立法上解釈上の重要な立場を提供するものであろうことは当裁判所の十分に理解し得るところではあるけれども、今俄に同法を左様に割り切つて解釈しこの角度からぢかに本件事案に立ち向うことも聊か躊躇せざるを得ない理由があるので本件では暫く被告のこの本案前の抗弁乃至は見解はこれを採らないことにする、そこで進んで本案について考察するに、この領域では昭和二八年中訴外会社設立時株式四〇〇〇株の引受人等が原告の主張するように完全に株金を払込んで然る上設立登記がなされたものであるのかそれとも被告の主張するように全くこれを払込んでなく従つて発起人たりし原告等がその払込の責に任ずべき事情にあるのかという点が唯一の事実上の争点であるところこの点については証人光塚米五郎、同梅景富士夫の証言と尚これ等証言によりその成立を肯認することのできる乙第一、二号証を併わせ審按すれば右訴外会社はその設立時株式引受人等において何等株金の払込をすることなく全く欺瞞的方法を用いて設立登記を経由し居り、従つて、原告その他当該設立について発起人たる地位にあつた者は各自連帯して金二〇〇万円を、訴外会社に払込むべき責あり延て被告の差押処分の対照たる債権は原告の主張する如く昭和三四年一月二七日当時不存在ではなく、延て右差押はこの意味でも決して無効でないものと認めることができる。左すればこれをこの意味で無効となす原告の本訴請求は失当たること明らかで、棄却せられなければならない、仍て訴訟費用につき民事訴訟法第八九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 山中仙蔵 山東広吉 一之瀬健)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例